相続人の一人から相続登記を申請できるか

相続による不動産(土地・建物)の名義変更手続とは

相続による不動産(土地・建物)の名義変更とは、土地や建物などの不動産を所有している方が亡くなった場合、その不動産の名義を故人から相続人へ名義の変更を行う手続きです。
土地・建物などの不動産は、相続財産の中でも高額な財産であり、その処分方法や遺産分割の方法によっては、相続人間での争いになりやすいものですので慎重に手続を進める必要があります。
また、名義変更の手続きをしないままでいると、土地や建物の所有者が登記簿上明らかにならないため、さまざまな問題が生じる可能性もあります。

相続人の一人からでも手続きができるか

この不動産の名義変更登記を申請する際、相続人の一人からでも手続きをすることができるのでしょうか。
相続人の一人から手続きができるかどうか、相続登記の種類ごとに確認していきます。

まず、相続登記の種類としては、主に以下の3種類があります。
①    法定相続分による相続登記
②    遺産分割協議による相続登記
③    遺言書による相続登記

1.    法定相続分による相続登記

相続が発生した場合、各相続人の相続分は民法という法律によって定められています。この民法によって定められた相続分を法定相続分といい、法定相続分どおりの登記を申請することを「法定相続分による相続登記」と呼びます。
法定相続分による相続登記を管轄法務局に申請する場合には、相続分は法律によって定められているので、相続人間での遺産分割協議は不要になります。
そして、法定相続分による相続登記は相続人の一人から保存行為として申請することができます

例えば、父親が亡くなり、母親と長男、次男が相続人の場合、法定相続分は以下のようになります。

〇母親  相続分4分の2
〇長女  相続分4分の1
〇次女  相続分4分の1

以上のような例では、相続人である母親と長男、次男の3人から相続登記の手続きをするのが通常ですが、相続人の一人からでも手続きを行うことができます。
ただし、相続人の一人から手続きができるといっても自分の相続分の登記だけを申請することはできません。他の相続人の相続分を含めた相続分全体について手続きを行うことになります。

2.    遺産分割協議による相続登記

法定相続分に対して相続人全員で遺産分割協議を行い、その協議の内容どおりに登記申請を行うことを「遺産分割協議による相続登記」といいます。
相続人間で、特定の相続人が不動産を相続するとの遺産分割協議が成立した時には、不動産を相続する相続人の名義に変更する必要があります。
この時、実際に不動産を相続する相続人のみで名義変更の登記を申請することができます。ただし、遺産分割協議の内容に相続人全員が同意しなければならず、協議書には相続人全員の署名・捺印(実印)が必要になります

3.    遺言書による相続登記

被相続人(亡くなった方)が遺言書を作成しており、その中で不動産を特定の相続人に引き継がせることが指定されている場合に、その相続人の名義に登記申請を行うことを「遺言書による相続登記」といいます。
公正証書遺言以外の遺言書は、家庭裁判所による検認を経なければ手続きに使用することができません。
この時、不動産を相続するとされた相続人のみで、他の相続人の関与なしに手続きをすることができます
そのため、生前に遺言書を作成しておけば、実際に相続が発生した場合に迅速に手続きを進めることができます。

申請に関与しない相続人には権利証が発行されない

相続登記の種類ごとに、相続人の一人から名義変更の相続登記申請ができるかどうか確認してきましたが、相続を原因とする登記は相続人の一人から保存行為として相続人全員のために申請することができます。この時、相続人は、自己の相続分のみについての登記申請は認められず、共同相続人全員の相続分について登記申請しなければなりません。

しかし、登記の申請に関与しなかった相続人には登記識別情報通知(権利証)が発行されません。司法書士に登記の申請を依頼する場合であっても、手続きに関与した相続人には登記識別情報通知(権利証)が発行されますが、手続きに関与しなかった相続人には発行されません。
そして、相続登記申請後に相続不動産を売却したり新たに担保に入れる場合には、この登記識別情報を提供しなければなりません。つまり、相続登記の申請に関与しなかった相続人は登記識別情報通知が発行されていないため、売却手続き等の際に登記識別情報を提供することができないことになります。

このような場合には、事前通知制度、公証人による本人確認制度、司法書士による本人確認制度などの手続きを取らなければならず、余計な費用と手間が掛かってしまいます
そのため、相続人の一人から相続登記の申請をする場合には、手続きができてもその後の手続きのため注意が必要です。

 

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