金融機関から融資を受ける際の抵当権と根抵当権の違い②
不動産に対する担保権には、「抵当権」と「根抵当権」の2種類があることを前回ご説明させていただきました。
以下、前回に引き続き抵当権と根抵当権の違いについてご説明していきます。
抵当権・根抵当権が付いたまま名義変更ができるか
抵当権と根抵当権ともに、返済が受けられなかったときには、強制的に競売の手続きを取り、その売却代金から優先的に返済を受けられる担保権ですが、債権者自身がその不動産を実際に占有して使用するわけではありません。
つまり、抵当権や根抵当権が付いていたとしても、不動産の占有自体は所有者であることに変わりはなく、所有者が担保の目的となる不動産を使用し収益を上げることができます。そして、所有者自身が不動産を自由に使用できるので、ご自身の親族に不動産を贈与したり、売却したりして、不動産の名義も自由に変更できるように思われます。
しかしながら、抵当権を設定する場合、金融機関や保証会社と契約を締結しますが、その契約書の中で、「債権者の承諾」がなければ担保物件の現状を変更したり、第三者のために権利を設定したり、譲渡したりすることができないという条項が通常設けられています。
譲渡とは、不動産等の財産を譲り渡すことで、有償無償は問いません。贈与や売買もこの譲渡に当たりますので、新たに管理会社を設立して、その会社に売買で担保不動産を売却するためには、金融機関の事前の承諾が必要となります。
この金融機関の承諾を得ずに、勝手に名義変更をしてしまうと、契約違反になり一括返済を求められてしまう可能性がありますので、担保不動産の名義を変更する場合には、必ず金融機関の承諾を得ましょう。
担保権の実行とは?
収益不動産の購入の際に金融機関から融資を受け、抵当権もしくは根抵当権を設定しているが、何らかの理由により毎月のローンの返済が滞ってしまった場合、金融機関は実際に抵当権もしくは根抵当権を実行することになります。
では、抵当権もしくは根抵当権を実行するとは、どのような手続きを取るのでしょうか。
競売申立による差押え
債務者所有の不動産の上に抵当権を設定している債権者は、ローンの支払いが滞り回収が難しいと判断した場合位には、抵当権の実行としての競売の申立てをすることにより、申立てを受けた裁判所が、当該不動産を差し押さえることになります。
裁判所は、競売の申立てを認めると、競売開始の決定を出し、管轄法務局に差押えの登記を依頼します。
なお、同一の不動産に対して、複数の差押えの登記をすることもできます。
差押えの登記がされたとしても、所有者はその不動産を自由に処分することができるとされていますが、差押えをした債権者が優先するので、執行手続上は、その処分がないものとして取り扱われてしまいます。
競売による売却
債権者から裁判所に対する競売の申立てがなされることによって、競売の手続きが開始します。
そして、不動産に差押えの登記がなされ、競売による売却の手続きに入ります。
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債権者から競売の申立てがあると、裁判所から委嘱された不動産鑑定士が不動産の評価を行います。そして競売の価格を決定し、入札の期日に競売が実施されることとなります。
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競売物件の買受人の決定は、定められた期間内に入札に参加した人の中の最高金額の入札者に決定されます。この買受人は、定められた期間内に競落代金を裁判所に納付しなければならず、買受人は代金を納付すると目的不動産の所有権を取得するので、裁判所は、不動産に設定されている全ての抵当権等の抹消登記や、買受人への所有権移転登記を行い、競売手続きは終了します。
抵当権の実行としての担保不動産収益執行
抵当権の実行の方法として、担保に入っている不動産を競売にかけ、売却代金から返済を受ける方法のほか、「担保不動産収益執行」という方法があります。
これは、担保の目的となっている不動産を賃貸し、その賃料から債権の回収を図ろうとする執行方法です。主に、賃貸ビルや賃貸マンションなどの投資用不動産で採用される方法と言われています。
この場合、不動産には差押えの登記がなされるため、所有者は自由に不動産を収益処分することが出来なくなり、賃料も裁判所が選任する管理人が徴収することになります。
差し押さえた不動産を競売するか、担保不動産収益執行のどちらを選択するかは、債務者が決められることではなく、債権者が選択し裁判所に申し立てることにより開始します。
抵当権抹消登記の放置
金融機関から受けたローンを返済した場合、不動産に設定されている抵当権の登記を抹消する必要があります。
この場合、金融機関から抵当権を抹消するために必要な書類が交付されます。
しかし、この書類を受け取ったとしても、抵当権抹消登記を申請せずに、そのまま放置してしまう方も多くいらっしゃいます。
確かに、抵当権の抹消登記を申請しなくても何ら不利益はないですが、そのままでは、新たに金融機関から融資を受けることが難しくなってしまいます。金融機関としては、自分達の担保より優先する抵当権が既に登記されている不動産には、通常融資はしないからです。
そのため、必要な書類を受け取りましたら、早めにお手続きをすることをお勧めします。
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